水を張る前に、抜くことを考える。これが集合住宅で水風呂をやるときの、いちばん最初の順番だと思っている。浴槽そのものより、椅子より、チラーより先に。200リットルの水は、張るのは蛇口をひねればいいが、逃がすのは自分で段取りしないと、どこにも行かない。そして行き先を間違えると、困るのは自分だけではない。
戸建てなら庭に流せばいい話が、マンションのベランダでは途端に難しくなる。ベランダの排水口は、雨水を少しずつ流す前提でできていることが多く、一度に大量の水を受ける想定にはなっていない。ここに数百リットルを一気に流すと、排水が追いつかずに溢れ、隣や階下へ回ってしまう可能性がある。実際、ベランダの防水や排水をめぐるトラブルは珍しくない。だから、まず「どう抜くか」から設計する。
200リットルは、一気に流さない
基本は、少量ずつ、時間をかけて。バケツで汲み出すのは現実的でないので、多くの人が使うのが小型の水中ポンプだ。浴槽の底に沈め、ホースの先を排水口へ導いて、ゆっくり送り出す。ポンプの吐出量が大きすぎると、今度は排水口が受けきれない——だから「速く抜ける」ことより、「排水口が飲み込める速さに合わせられる」ことのほうが、この用途では大事になる。吐出量が大きいポンプほど、そのまま回せば排水口を溢れさせるリスクも大きい。吐出量の大きさは「ゆっくり流せる」を意味しない——流量を抑える絞り運転ができるかは製品の表示で確認し、できない場合でも、バルブや持ち上げで水位を見ながら少量ずつ流す。吐出量やホース径が商品ページに明記されているものを選び、自宅の排水口の口径と照らし合わせておきたい。
最大吐出量・最大揚程が商品ページに明記された100Vの水中ポンプ。浴槽の底に沈めて排水・循環に使う発想。排水口の受けられる速さと相談して選ぶ。
設置・排水のレーンで比較する →電気と水の注意: 水中ポンプもチラーも、水回りで電気を使う機器です。コードや電源の防水・アース、屋外での使用可否は製品によって異なります。必ずメーカーの取扱説明書に従い、濡れた手での操作や、指定外の使い方は避けてください。
床は、濡らさない前提で組む
水を張れば、必ずこぼれる。またぐときも、出るときも、浴槽の外に水は落ちる。ベランダや浴室の床にじかに浴槽を置くと、こぼれた水が行き場を失って溜まる。そこで、床との間に一枚かませる。すのこや水はけマットを敷いておくと、こぼれた水が下を通って排水口へ向かい、浴槽の底も直に濡れ続けずに済む。濡れっぱなしの床は、カビもだが、滑るのがこわい。冷えた身体で足を滑らせないためにも、水はけと滑り止めは最初に用意しておきたい。
はめ込みで広げられる水はけ・滑り止めマット。商品ページでは排水・防滑・屋外対応と説明。こぼれた水を床下へ逃がしつつ、足元の滑りを抑える下地に。
設置・排水のレーンで比較する →
規約と、階下への一言
道具の前に、住まいのルールがある。ベランダの使い方や防水は、管理規約で制限されていることがある。水を大量に扱う前に、規約を確認し、心配なら管理者に相談しておくのが結局は早い。「下の階に水が回るかもしれない」という一点だけは、道具では完全には潰せない——だから、排水は少量ずつ、様子を見ながら。設置場所は排水口に近く、荷重が一点に集中しない場所を選ぶ。重さも見落とせない。200リットルの水はそれだけで約200kg、浴槽と人を合わせれば数百kgになる。すのこやパレットに「耐荷重◯kg」と書かれていても、それはその道具自体が支えられる重さであって、ベランダの床が許容できる積載荷重とは別の話だ。床側がどれだけの重さを支えられるかは、建物の仕様や管理規約で定められていることが多い。心配なら、この点も含めて管理者に確認しておきたい。当サイトはこれらの安全や結果を保証するものではなく、あくまで設計の考え方と道具を紹介しています。
水は、ため置きしない
排水を段取りするもう一つの理由が、衛生だ。水を張ったまま何日も放置すると、ぬめりや汚れ、においの原因になる。基本は、使うたびに水を入れ替え、使い終わったら水を抜いて浴槽を乾かす。次まで日が空くなら、なおさら張りっぱなしにしない。槽は、素材を傷めないやわらかいスポンジなどでこまめに洗い、しまう前にしっかり乾かしておく。チラーを回す場合も、循環させる水は清潔に保ち、機器側のフィルターやタンクの手入れは取扱説明書の指示に従う。ここで特定の殺菌剤や防カビ剤の効果をうたうつもりはないが、「こまめに入れ替えて、乾かす」という当たり前の運用が、いちばん効く。
「出す」を決めてから、「冷やす」を選ぶ
排水と床の段取りがついて、はじめて浴槽やチラーの出番になる。器はポータブル水風呂のレーンに、冷やす方式の違いは氷で届く温度、チラーで届く温度にまとめた。順番を逆にすると、立派なチラーを買ったのに水を抜けなくて詰む——という、笑えない事態になりかねない。冷やす前に、逃がす道を引いておく。
本記事は設置・排水の安全や結果を保証するものではありません。集合住宅での使用は管理規約・防水仕様・排水能力を必ずご自身で確認し、階下への配慮のうえで行ってください。掲載品のスペックは商品ページの表示に基づき、価格は目安の帯表示のみとしています。